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弁護士は手品師ではない

 家(業)を守ったのは自分だ,父名義の資産のうち会社がある土地や建物は,相続から除外すべきと主張することも多くあります。

 その種の主張は,「弁護士による書類」や「弁護士の名」と使われるのが特徴です。

 Aさんの父親は,戦後復興期に個人商店を立ち上げ,少しずつ規模を大きくしていきました。

 税理士のすすめで,株式会社にしましたが,土地も建物も個人名義のまま事業部分だけが法人化されたのです。

 長男は父の会社に入り,父の亡くなる頃には専務でした。また,妻は監査役(役員報酬あり)でした。

 相続が始まると,「会社を続けられたのは,俺のおかげだ」とし,会社のある土地,建物は相続から除外してもらう」と主張して,譲りません。

 そこに弁護士が出てきて,手品師振りを発揮します。

 弁護士は,二男Aさんと長女B子さん,三女C子さんに対し,初めて見る内容証明郵便で『   』,相続財産は1億円で,そのうち会社のある敷地,建物は8000万円ですから,寄与分(旧民法相続法  条)は80%ですから,相続財産から当然除外されます。残り20%にあたる2000万円をAさんら3人で分配して下さい。長男はその分配を辞退します』と通知書(弁護士は内容証明郵便を出すときは,表題を通知書とすることが多いです)で宣言しました。

 弁護士が,その権威と法律の規定とで,長男の主張を裏付けたのです。

 しかし,長男の主張は,裁判所では認められません。

 その理由は,①旧規定に寄与分がありましたが,それは,長男や弁護士が言っても,「主張」でしかありませんし,その正当性の判断は裁判所が最終判断をします。

ですから,内容証明郵便に驚いても,受け入れることは「ちょっと待った!」ということになります。②旧規定    は,   年に新設されましたが,その立法事実は,例えば,農家の長男が義務教育が終わってすぐ父を助けていて,貰うものは小遣い程度。結婚した後は妻とともに文字どおり「真っ黒になって,暗くなるまで農作業」という実情(二男三男は都会でサラリーマン)を踏まえて,長男にはわずかな「農地も3分の1」が相続分ではあまりにもひどいという公平の考えがあったのです。

 事例では,長男は父の会社から取締役として,父と同じ程度の役員報酬を貰っており,結婚後,監査役となった妻は非常勤なのに社員並みの役員報酬という実情でした。長男が父の会社で     という実情はありません。

 長男が,寄与分の主張をするのは自由です。弁護士の権威を借りるのも自由です。

弁護士は,長男と会社との関わりという事実経過まで変えることはできません。手品師ではないからです。

 相続問題で弁護士が内容証明郵便で依頼者の主張を権威付けすることは普通にあることですが,それは,「主張」ですので,その根拠となる事実経過を冷静且つ慎重に見ることが必要ですし,不安があれば,あなたも弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。